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血友病

【血友病とは】 血友病の疫学と病態

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血友病は、先天性血液凝固異常症の中で最も多いX染色体連鎖劣性遺伝形式によって母親から男子に伝播する出血性疾患で、血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)の量的・質的異常である「血友病A」と第Ⅸ因子(FⅨ)の量的・質的異常である「血友病B」に分類される。幼少期から出血症状を繰り返し、量的・質的異常がみられる血液凝固因子の活性レベルの程度によって重症度が異なる。

疫学

男子出生約5,000人に一人の割合で発生する。血友病Bの患者数は血友病Aの約5分の1で、令和4年度(2022年)の血液凝固異常症全国調査では、わが国の患者数は、血友病Aが5,776人(女性94人)、血友病Bが1,294人(38人)であった(図1)1、2)

※:HIV非感染・感染生存合計

病態

血友病Aでは、血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)をコードするF8(第Ⅷ因子遺伝子)変異によって、FⅧが欠乏もしくは機能低下を来す。F8は、X染色体長腕(Xq28)に位置し、26個のエクソンと25個のイントロンからなる大型の遺伝子(186kb)である。血友病AにおけるF8変異には、染色体の再構成および遺伝子配列の挿入・欠失、一塩基置換(点変異)があり、重症患者のおよそ40~50%に遺伝子再構成(イントロン22逆位)が認められる3、4)。また、血友病Bでは、血液凝固第Ⅸ因子(FⅨ)をコードするF9(第Ⅸ因子遺伝子)変異によって、FⅨが欠乏もしくは機能低下を来す。F9は、X染色体長腕(Xq27.1)に位置し、8個のエクソンと7個のイントロンからなる遺伝子(34kb)である。血友病BにおけるF9変異の約90%は一塩基置換(点変異)である5)

図1 わが国の血液凝固異常者数(令和4年度)

※:HIV非感染・感染生存合計
VWD: von Willebrand disease(フォン・ヴィレブランド病)

公益財団法人エイズ予防財団血液凝固異常症全国調査委員会. 血液凝固異常症全国調査. 令和2年度報告書. 公益財団エイズ予防財団(2022)、p.3より作成

血液凝固因子による凝固反応は、血液中の凝固因子の活性化から始まる「内因系」と、血液が血管外に出て、組織因子(TF)と血液中の凝固因子が接触することで始まる「外因系」の2つの経路からなり、最終的には「共通系」を経由してトロンビンが産生、フィブリノゲンからフィブリンが形成される(図2)。FⅧおよびFⅨは、内因系と外因系の交差点に位置し、ともに、血液凝固反応において重要な役割を果たすが、欠乏もしくは機能が低下すると活性レベルが低下し、血液凝固異常が引き起こされる。特に、トロンビン生成反応を増大させ、安定したフィブリンを形成するために重要なFⅧの欠乏もしくは機能低下が原因となる血友病Aでは、形成されるフィブリンが極めて少なくなり、かつ不安定となるため、重大な出血傾向を来す。

※:容易に出血する/通常あまり出血がみられない部位(関節内など)が出血する、一度出血すると止まりにくい。
TF:tissue factor

図2 血液凝固反応と第Ⅷ因子(FⅧ)および第Ⅸ因子(FⅨ)

医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第3版. メディックメディア、東京、2023、p.250より一部改変

医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第3版. メディックメディア、東京、2023、p.250より一部改変

~血液凝固因子と止血~

止血は、血小板が凝集して血栓(一次血栓)が作られる「一次止血」と、血液凝固因子による凝固反応で一次血栓の周囲がフィブリンで覆われ、より強い血栓(二次血栓)が作られる「二次止血」に分けられる。出血時には、一次止血と二次止血がほぼ同時に起こり、互いに影響することで止血効果を得ることができる。

二次止血にかかわる血液凝固因子には14種類あり、カルシウム以外は糖タンパクで、組織因子(TF)以外は主に肝臓で生合成される。

第Ⅷ因子(FⅧ)および第Ⅸ因子(FⅨ)

略称凝固因子血漿含有活性体
第Ⅰ因子(FⅠ)フィブリノゲン※2200~400mg/dLフィブリン
第Ⅱ因子(FⅡ)プロトロンビン100~150μg/mLトロンビン
第Ⅲ因子(FⅢ)組織因子(TF)(脳や肺、胎盤に多い)
第Ⅳ因子(FⅣ)(カルシウム)※2
第Ⅴ因子(FⅤ)不安定因子(ACグロブリン)50~100μg/mLⅤa
第Ⅵ因子(FⅥ)※1
第Ⅶ因子(FⅦ)安定因子(プロコンバーチン)※2400ng/mLⅦa
第Ⅷ因子(FⅧ)抗血友病因子(AHF)※2100~200ng/mLⅧa
第Ⅸ因子(FⅨ)Christmas因子※23~5μg/mLⅨa
第Ⅹ因子(FⅩ)Stuart-Prower因子5~10μg/mLⅩa
第Ⅺ因子(FⅪ)PTA6μg/mLⅪa
第Ⅻ因子(FⅫ)Hageman因子20~30μg/mLⅫa
第XIII因子(FXIII)フィブリン安定因子※210~20μg/mLXIIIa
プレカリクレイン50μg/mLカリクレイン
高分子キニノゲン70μg/mLブラジキニン

※1:欠番
※2:それぞれの因子の欠乏や機能低下時の補充を目的とした凝固因子製剤のあるもの(それ以外は、新鮮凍結血漿によって、凝固因子を補う)。
TF:tissue factor
医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第2版. メディックメディア、東京、2019、p.215より一部改変

出典)

  1. 長江 千愛. 小児内科.2021; 53(7): 1120-1123.
  2. 公益財団法人エイズ予防財団血液凝固異常症全国調査委員会. 血液凝固異常症全国調査. 令和4年度報告書. 公益財団エイズ予防財団(2022).
  3. 嶋 緑倫監修. Edited by Lee CA, Berntorp EE, Hoots WK. Textbook of Hemophilia 3rd edition 日本語要訳版・上巻, Wiley Publishing Japan.
  4. 野上 恵嗣. 血栓止血誌. 2008; 19(6): 779-787.
  5. 中村 徹ほか. 血栓止血誌. 2013; 24(4): 445-453.

参考)
長江 千愛. 小児内科. 2021; 53(7): 1120-1123.
中尾 眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、2019.
医薬情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第3版. メディックメディア、東京、2023.
嶋 緑倫監修. Edited by Lee CA, Berntorp EE, Hoots WK. Textbook of Hemophilia 3rd edition 日本語要訳版・上巻, Wiley Publishing Japan.
野上 恵嗣. 血栓止血誌. 2008; 19(6): 779-787.
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
中村 徹ほか. 血栓止血誌. 2013; 24(4): 445-453.

JPN-AFS-1746

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