血友病の治療
① 出血時補充療法(on demand療法)
出血時に、血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)製剤(血友病A)もしくは血液凝固第Ⅸ因子(FⅨ)製剤(血友病B)を単回もしくは複数回、ボーラス投与(静脈内投与)する。
凝固因子製剤の投与量や投与間隔は、出血部位や出血の程度、もしくは使用する凝固因子製剤の種類によって異なる。目標ピークレベル(%)※1まで凝固因子の活性を上げるために必要な凝固因子製剤のおおよその投与量(単位)は、表1の式で求められるが、循環血漿量などの個体差があるため、あくまでも目安とし、患者ごとに血液中の凝固因子レベルをモニタリングしながら調整することが望ましいとされている1)。
※1:出血のタイプ(急性出血、外科手術・処置、歯科処置時の出血など)および出血の部位(関節内出血、筋肉内出血、鼻出血、口腔内出血など)により異なる。
表1 凝固因子製剤の必要投与量(単位)
血液凝固因子 | 必要投与量(単位)の求め方 |
---|---|
FⅧ(血友病A) | 体重(kg)×目標ピーク因子レベル(%)※2×0.5 |
FⅨ(血友病B) | 体重(kg)×目標ピーク因子レベル(%)※2×X※3 |
※2:出血のタイプ(急性出血、外科手術・処置、歯科処置時の出血など)および出血の部位(関節内出血、筋肉内出血、鼻出血、口腔内出血など)により異なる(「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」参照)。
※3:血漿由来製剤の場合は約1、遺伝子組み換えFIX製剤の場合には1~1.4となるが、特にFIXの場合は上昇率の個人差が大きいため、個々に輸注試験をして回収率を確認することが望ましい。
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会.
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版、p.5より作成
凝固因子製剤投与後、凝固因子の活性は10~15分程度でピークを迎え、その後徐々に低下する。血中半減期は、FⅧで8~14時間、FⅨで16~24時間であるが、半減期延長製剤の場合は、FⅧで16~19時間、FⅨで80~110時間程度になる。
軽症および中等症の場合は、治療前の凝固因子活性トラフ値(次の製剤を投与する直前の最低値)を考慮し、目標ピーク因子レベルを設定する。手術時の止血管理や頭蓋内出血、腸腰筋出血などの重篤な出血時には、凝固因子の活性を一定期間、一定レベルに維持するために持続投与を行う。まず、目標ピーク因子レベルに必要な投与量でボーラス投与を1回行い、その後、半減期標準製剤を用いて、シリンジポンプなどで持続投与を行うが、それにより、凝固因子活性トラフ値(持続投与中の最低値)を100%に維持することが可能になる。
② 定期補充療法
出血予防もしくは血友病性関節症の発症進展抑制を目的に、非出血時に、凝固因子を長期間にわたって定期的に補充する止血管理法で、関節障害発症前に開始する「一次定期補充療法」と、関節障害発症後に開始する「二次定期補充法」がある。
定期補充療法には、主に4つの方式がある(表2)。
表2 主な定期補充療法
方式 | 投与方法 |
---|---|
スウェーデン方式 | ・トラフ値を1%以上に維持するように、血友病Aには25~40単位/ kg/回を週に3回(あるいは隔日)、血友病Bには週に2回(あるいは3日ごと)投与する。 |
カナダ方式 | ・血友病Aには、最初は50単位/ kg/回を週に1回投与し、dose-escalationの基準※1を満たした場合には、30単位/ kg/回を週に2回に、最終段階では、25単位/ kg/回を週に3回(あるいは隔日)と、患者ごとの出血頻度により、投与量を変化させ、投与回数を増加させる。 |
日本方式※2 | ・基本的にはスウェーデン方式と同じであるが、開始時のアドヒアランスの向上と、できる限り、末梢静脈穿刺による家庭療法(家庭内注射および自己注射)を可能にするために、週に1回の注射練習を認めている。 →詳しくは、③家庭療法へ ・血管確保などの問題がある場合には、血友病Aに対して、40~50単位/ kg/回を週に2回のレジメンも選択可能にしている。 |
オランダ方式 | ・トラフ値を加味せず、投与量は出血パターンによって調整される。一般的には、血友病Aには、15~25単位/ kg/回を週に2回もしくは3回、血友病Bには週に1回もしくは2回投与する。 |
※1:次のステップに進む基準;3ヵ月間に同一関節に3回以上の出血がある、3ヵ月間に4回以上の軟部組織もしくは関節出血がある、あるいは同一関節に5回以上の出血がある。
※2:日本小児血液学会で行われている定期補充療法研究のプロトコール
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012、p.35より一部改変
一次定期補充療法
関節障害を発症する前、2歳未満もしくは最初の関節出血後/2回目の関節出血前から開始する一次定期補充療法は、血友病性関節症の発症予防に有用で、重症患者に対する標準的治療にもなっている2、3)。
表3 一次定期補充療法における投与方法
血液凝固因子 | 投与方法 |
---|---|
FⅧ(血友病A) | FⅧ製剤を1回20~50U/kgで週3回もしくは2日に1回投与する。 |
FⅨ(血友病B) | 血漿由来FIX製剤なら1回20~50U/kg、遺伝子組み換え製剤なら1回40~80U/kgを週2回もしくは3日に1回投与する。 |
注1:目標とするトラフ因子レベルは、重症の場合は1%以上、中等症の場合はその患者の活性値以上とする。
注2:輸注量や間隔の決定に際し、トラフ値での出血頻度や製剤輸注時の回収率には個人差があるため、輸注試験を行い、得られた回収率や半減期を考慮するのが望ましい。
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会.
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版、p.16より作成
二次定期補充療法
小児は一次定期補充療法と同じレジメンが適用できるが、成人は小児に比べて回収率が高く、かつ半減期が長くなるうえ、薬物動態の個人差も大きく、半減期も幅がでるため、患者の出血回数や仕事の内容、ライフスタイルなどを考慮しながら、患者ごとに薬物動態試験を行い、出血予防可能なトラフレベルを維持するために最適な投与量と投与間隔を設定する。
予備的補充療法
一次定期補充療法もしくは二次定期補充療法のように、定期的に凝固因子を補充する止血管理法とは別に、スポーツなど、出血の可能性が高いイベントに参加する前や、リハビリテーションの前などに、あらかじめ出血を防ぐために、FⅧ製剤もしくはFⅨ製剤を投与する予防的補充療法がある。表4が予備的補充療法の投与量の目安になるが、定期補充療法を行っている場合は、投与前の因子レベルを考慮して追加投与量を決定する1)。
表4 予備的補充療法の輸注量の目安
運動量 | 具体例 | 目標ピーク因子レベル |
---|---|---|
少ない | 散歩や仕事などでの近距離の徒歩移動、リハビリテーション | 20~40% |
多い | 遠足や旅行など遠距離の徒歩移動、体育、スポーツ | 40~60% |
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版、p.15
③ 家庭療法
出血時には、早期に止血し、痛みや合併症をできるだけ軽減させるために、凝固因子をできるだけ早く補充することが原則となり、それと同時に行う出血部位に対する補助的ケアも重要となる。そのためにも、医療機関を受診する前に、患者や保護者が、家庭でできる補充療法と出血部位に対するケアを実践できるよう、指導する必要がある(表5)。
表5 家庭でできる出血時の対応・治療
補充療法 | ・出血時に、できるだけ早く凝固因子を補充できるように、血液凝固因子製剤による家庭内注射および自己注射が認められている。 ・基本的には、血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)製剤(血友病A)もしくは血液凝固第Ⅸ因子(FⅨ)製剤(血友病B)を末梢血管から補充するが、血管確保が難しい場合は、中心静脈アクセスデバイスとして、ポートを設置することがある。 ・家庭で十分量の凝固因子が補充できたら、医療機関を受診する。 |
---|---|
出血部位に対するケア | ・痛みや違和感があれば、保護者にすぐ知らせるよう、子どもに教えておく。 ・出血時には、「RICE(rest:安静、ice:冷却、compression:圧迫、elevation:挙上)」を実践する(図1)。 図1 出血時の基本「RICE」 石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 2012、診断と治療社、東京、p.18 ・医療機関を受診する際、おぶる、抱っこするなどして、出血部位の安静を保つようにする。 |
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 2012、診断と治療社、東京、p.18-19.、
長江 千愛. 小児内科. 2021; 53(7): 1121.、
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する
止血治療ガイドライン 2013年改訂版.
より作成
④ 補助療法
DDAVPによる止血療法
抗利尿ホルモンであるL-アルギニンバソプレシンの誘導体であるデスモプレシンは、軽症~中等症の血友病Aの軽度の出血に対する第一選択薬となっているが、繰り返し投与すると効果が減弱すること、注射後のFⅧレベルの上昇効果については個人差が大きいため留意する必要がある。また、副作用として、特に、2歳以下では水中毒に、高血圧や動脈硬化を有する患者では、血圧上昇に十分注意する。なお、重症血友病Aおよび血友病Bに対しては効果がない。
DDAVP:1-desamino-8-D-arginine vasopressin
トラネキサム酸による止血療法
プラスミノゲンからプラスミンへの活性化を阻害し、凝血塊の安定性を増強する作用を持つ抗線溶薬であるトラネキサム酸は、血友病の口腔内出血や鼻出血、消化管出血などの粘膜出血において、より確実な止血効果が得られ、再出血の予防が期待できる。そのため、これら粘膜出血では、血液凝固因子製剤と併用、もしくは単独での投与が有効となる4)。ただし、血尿時には使用できない。
シーネ、ギプスなどの活用
乳幼児の場合、関節内出血や筋肉内出血を来した後、局所安静の維持は困難で、再出血を来しやすい。そのため、出血部位の安静を維持できるよう、保護者に指導するが、四肢の出血で、安静維持が難しい場合は、整形外科などに依頼し、シーネやギプスなどで固定する。5歳前後から、出血部位の安静維持の必要性を丁寧に説明すれば、ある程度、局所安静を維持することができるようになるため、シーネやギプスなどで固定するケースは少なくなる。
疼痛管理
関節内出血や筋肉内出血の後に、出血部位に激しい痛みが続く場合には、出血後の疼痛管理も重要であるが、多くの鎮痛剤には、血小板凝集阻害作用や胃腸障害などの問題がある。アスピリンは不可逆的な血小板凝集阻害作用を有し、その作用は血小板寿命(8~11日)が尽きるまで続くため、血友病患者の疼痛管理には禁忌である。アセトアミノフェンは血小板凝集阻害作用がほとんどないため、第一選択薬となるが、鎮痛効果が高くない。非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drug:NSAIDs)は、血小板凝集阻害作用が問題となるが、ジクロフェナクやメフェナム酸、ロキソプロフェンなどはCOX-2選択性が比較的高く、血小板凝集阻害作用はアスピリンに比べて弱く、阻害作用の発現時間も短いため、アセトアミノフェンで効果が得られない場合には、十分な補充療法を行ったうえで、これらを併用することは可能である。また、関節内出血による疼痛に対しては、血液凝固製剤投与後の関節穿刺も考慮できる。
インヒビター保有血友病患者に対する治療
血友病治療では、血液凝固因子製剤による補充療法を繰り返し行った結果、製剤中のFⅧもしくはFⅨを非自己と認識し、FⅧもしくはFⅨに対する同種抗体(インヒビター)が出現することがある。インヒビターは、それぞれの血液凝固因子の機能に重要な領域に結合し、その構造や機能を障害するだけでなく、抗原・抗体複合体を形成してクリアランスを亢進する。一度インヒビターが出現すると、通常のFⅧ製剤もしくはFⅨ製剤の止血効果が著しく低下するため、それまでの治療を変更することとなる。
血友病の治療において、補充療法の効果が得られない(回収率が低下した)場合には、凝固一段法によるベセスダ法(Bethesda method)により、インヒビターを測定する(図2)。
図2 インヒビターの測定(凝固一段法によるベセスダ法[Bethesda method])
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012、p.17,43より一部改変
インヒビター保有例に対する止血治療には、「バイパス止血療法」と「インヒビター中和療法」がある。止血治療を選択するにあたり、出血症状の重症度や外科手術の内容、最新のインヒビター力価の高低、凝固因子製剤に対してどの程度の強さで反応したかをみる既往免疫反応(過去のインヒビター力値)を考慮する(図3)。
図3 インヒビター保有血友病患者に対する治療法選択のアルゴリズム
※1:少なくとも最近数ヵ月以内のインヒビター値を指すが、重度の出血や手術時では直近のインヒビター値が必要
※2:致命的な出血もしくは後遺症を残す可能性のある重篤な関節や筋肉内出血
※3:生命にかかわる手術およびそれ以外でも出血量が多く止血困難が予想される手術
※4:5~10BU/mLのインヒビターでは血漿交換を行わなくとも、理論的には高用量のFⅧ製剤、もしくはFⅨ製剤による中和が可能
天野 景裕著. 血友病. 中尾眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、p.248より改変
① バイパス止血療法
外因系凝固を活性化させ、インヒビターによって失活しているFⅧおよびFⅨを経由せずに凝固経路を迂回(バイパス)して止血させる。バイパス止血療法製剤には、「活性型プロトロンビン複合体製剤(activated prothrombin complex concentrate:aPCC)」、「遺伝子組み換え活性型凝固第Ⅶ因子(recombinant activated factor Ⅶ:rFⅦa)」、血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子製剤(FVIIa/FX)」があり、いずれも止血効果は確認されており、第一選択になるが、既往免疫反応の有無や過去の止血効果などから総合的に判断して決定する。
② インヒビター中和療法
高用量のFⅧ製剤もしくはFⅨ製剤を投与して、血液中に存在するインヒビターを中和し、凝固因子活性を上昇させる方法で、確実な止血効果のために、インヒビター中和量(血液中のインヒビターを中和させるために必要な因子量)に、目標止血レベルに必要な製剤を加えて投与する。インヒビター中和量(単位)は、理論上は「40×体重(kg)×{100-ヘマトクリット(Ht)値(%)/100}×インヒビター力値(BU/mL)」で算出されるが、通常は、Ht値を50%とし、「20×体重(kg)×インヒビター力値(BU/mL)」で算出する。算出したインヒビター中和量に、FⅧ(目標とする活性[%])×体重×1/2)もしくはFⅨ(目標とする活性[%]×体重)を加えた量の製剤をボーラス投与する。その後、出血の程度に応じて、引き続き、ボーラス投与もしくは持続投与を行う。
また、急性出血や外科手術時の止血治療以外の治療(非出血時の治療)として、インヒビターそのものを消失させることを目的に、FⅧ製剤もしくはFⅨ製剤を頻回に反復投与することで、免疫反応を低下させる「免疫寛容導入(immune tolerance induction:ITI)療法」がある。
③ 免疫寛容導入(ITI)療法
確立された治療プロトコールはないが、原則、インヒビター値が10BU/mL未満に低下するまで、インヒビター力価をモニタリングしながら待機する※1とされている1)。ITI療法は、インヒビター保有血友病Aでは60~70%の成功率3、4)で、重要な治療になっているが、インヒビター保有血友病Bでは、血友病Aに比べて成功率が低いうえ、FⅨ抗体はアナフィラキシーや抗原抗体複合体の腎臓への沈着によるネフローゼ症候群を惹起する可能性があるため、ITI療法は推奨されていない※2。
※1:待機期間が1~2年を超える場合や重度の出血を認めた場合は、インヒビター値にかかわらず、ITI療法を開始することも考慮する。
※2:インヒビター保有血友病BでITI療法を検討する場合は、血友病専門施設で行うことが推奨されている。
理学療法
血友病では、患者さんの生活の質(quality of life:QOL)を維持するためにも、出血時あるいは非出血時の治療だけでなく、理学療法も重要となる。特に、関節内出血は、同じ関節に繰り返し出血を起こすと、慢性関節炎や関節軟骨破壊、関節変形や関節拘縮を来す「血友病性関節症」となり、患者さんの日常生活動作(activity of daily living:ADL)やQOLが大きく損なわれるため、止血後の筋力維持や拘縮予防などのリハビリテーションは重要である。
血友病患者に対するリハビリテーションは、関節症手術に伴うリハビリテーションとそれ以外のリハビリテーションに大別される。
① 関節症手術に伴うリハビリテーション
関節手術に伴うリハビリテーションでは、術後の機能回復を目的とする。一般社団法人日本血栓止血学会の「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」による観血的治療時の補充療法に従ってリハビリテーションを進めれば、インヒビター保有例を除いて、術後のリハビリテーションにおける出血は少なく、他の関節疾患と同様のプログラムで進めることができるが、出血性変化に十分注意しながら行う4)。インヒビター保有血友病患者では、インヒビターのない血友病患者に比べて出血の可能性が高くなることから、出血所見の有無を確認しながら慎重に進める必要がある4)。
血友病性関節症では、障害が上肢と下肢に併存することも多い。そのような患者では、上肢で支えながらの歩行訓練を行う下肢の手術を行った場合、術後のリハビリテーション期間が長くなることがある。
② 関節手術以外のリハビリテーション
リハビリテーションは、術後に行うものだけでなく、血友病性関節症の予防や血友病性関節症を来した後の進行予防、さらには血友病性関節症進行時のQOL改善のためにも有用となる4)。
血友病性関節症では、出血によって腫脹や疼痛が生じると安静固定が必要になるが、それによって筋力低下や関節拘縮が招くことがある。筋力が低下すると、関節支持性が低下するため、より関節内出血を来しやすくなってしまう(図4)。また、出血する機会を減らそうとして過剰に自己制限をかけてしまうと、活動性が低下することで筋力が低下し、かえって出血を来しやすくなる状況に陥ってしまうことが多い(図4)。この悪循環を断ち切るために、関節の可動域を広くしたり、筋力を強化することが有用になる4)。また、血友病性関節症が進行すると、関節の機能障害によって歩行能力が低下したり、腰痛などがみられるようになることがある。これら日常生活が阻害される症状を軽減するためにも、リハビリテーションは有用である4)。
図4 血友病性関節症の悪循環
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012、p.79.
関節手術以外のリハビリテーションは、歩行が不安定で、かつ定期補充療法を開始する前であることが多い乳幼児、関節出血~関節症初期、関節症進行期と、関節症の状態別にアプローチする。
③ リハビリテーション前の予備的補充療法
リハビリテーションを行う前に、あらかじめ出血を防ぐために、FⅧ製剤もしくはFⅨ製剤を投与する(表6)。一般社団法人日本血栓止血学会の「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版」では、リハビリテーション前の予防的補充療法の投与量(目標ピーク因子レベル)を20~40%としているが、定期補充療法を行っている場合には、投与前の因子レベルを考慮して追加投与量を決定するとしている1)。
出典)
1)インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版.
2)長江 千愛. 小児内科. 2021; 53(7): 1120-1123.
3)中尾 眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、2019.
4)石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
参考)
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
長江 千愛. 小児内科. 2021; 53(7): 1120-1123.
中尾 眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、2019.
医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第2版. メディックメディア、東京、2019.
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版.
インヒビター保有血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビター保有血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版.
世界血友病連盟(WFH). インヒビターとは. 2009. http://www1.wfh.org/custom/www.wfh-japanese.org/B03_What-Are-Inhibitors-1.pdf