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血友病

【血友病の診断・治療】血友病の診断

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血友病では、関節内や筋肉内などの深部出血を特徴とし、それら出血症状や家族歴、検査所見によって「血友病」と診断される。

スクリーニング検査(図1)

出血傾向を認めたら、問診や診察によって得られた情報に加え、血小板数、活性化トロンボプラスチン時間(APTT)、プトロンビン時間(PT)、フィブリノゲン定量やFDP/Dダイマー量を測定して、①血小板数の異常、②血液凝固の異常、線溶の異常をスクリーニングする。
APTT:activated p artial t hromboplastin t ime、PT:prothrombin t ime、FDP:フィブリン・フィブリノゲン分解産物

血液凝固の異常であることが確認できたら、血友病をスクリーニングするために、出血時間、血小板数、APTTおよびPTを測定する。血友病は、血管や血小板の異常ではなく、内因系である血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)および第Ⅸ因子(FⅨ)が欠乏する血液凝固異常症であるため、血友病A、Bともに、出血時間や血小板数は正常値を示し、内因系凝固機能を反映するAPTTは延長するが、外因系凝固機能を反映するPTは正常であるという所見を示す(表1)。
※:軽症型血友病Aでは、必ずしもAPTTの延長は認めない。

図1 出血傾向診断のためのスクリーニング検査

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FDP:フィブリン・フィブリノゲン分解産物

宮川 義隆、天野 景裕編. はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル. 医薬ジャーナル社、大阪、2017、p.44.

表1 スクリーニング検査における血友病の検査所見

検査項目血友病基準範囲
APTT延長(50~150秒)30~40秒
PT基準範囲内11~15秒
血小板数基準範囲内15~35万/μL
出血時間基準範囲内1~3分

注)軽症型血友病Aでは、必ずしもAPTTの延長は認めない。

白幡 聡、福武 勝幸編. みんなに役立つ血友病の基礎と臨床. 改訂3版、医薬ジャーナル社、大阪、2016、p.127より一部改変

確定診断(図2、図3)

① 凝固因子活性の測定
スクリーニング検査で、PT正常、血小板数正常、出血時間正常で、APTTのみ延長という結果が得られたら、第Ⅷ因子(FⅧ)と第Ⅸ因子(FⅨ)の活性を測定する。凝固因子活性の測定法には、凝固一段法、凝固一段法、発色性合成基質法の3つがあるが、簡便さや自動化、コスト面などから、「凝固一段法」が一般的である。測定対象の凝固因子の欠乏血漿(第Ⅷ因子欠乏血漿、第Ⅸ因子欠病血漿など)に被検血漿(患者検体)を加え、凝固時間(APTT)を測定する(図4)。

② クロスミキシング試験(交差混合試験):後天性血友病と鑑別する
第Ⅷ因子(FⅧ)/第Ⅸ因子(FⅨ)の活性低下が先天性の欠乏によるものか、あるいは何らかの凝固因子阻害物質(抗体/インヒビター)出現によるものなのかを評価する。被検血漿(患者検体)と正常血漿(健常検体)をさまざまな比率で混合し、混合検体のAPTTを測定する(因子活性の測定と同時に行う)。

③ フォン・ヴィレブランド抗原量の測定:「フォン・ヴィレブランド病(VWD)」と鑑別する
血友病では、同じ先天性の血液凝固異常疾患であり、血友病と同様に、PT正常/APTT延長という検査結果を示し、血友病Aと同じように血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)の活性低下も認められる「フォン・ヴィレブランド病(von Willebrand disease:VWD)」との鑑別が重要になる。第Ⅷ因子(FⅧ)および第Ⅸ因子(FⅨ)に加え、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の活性を測定し、VWF の活性が正常で、FⅧもしくはFⅨの活性が40%未満であれば、血友病Aもしくは血友病Bと確定診断できる(表2)。

図2 血友病確定診断のためのアルゴリズム

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VWD:フォン・ヴィレブランド病

白幡 聡、福武 勝幸編. みんなに役立つ血友病の基礎と臨床. 改訂3版、医薬ジャーナル社、大阪、2016、p.130

図3 APTTもしくはPTのいずれかに延長を認めた場合の鑑別診断フローチャート

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FDP:フィブリン・フィブリノゲン分解産物  VWD:フォン・ヴィレブランド病

白幡 聡、福武 勝幸編. みんなに役立つ血友病の基礎と臨床. 改訂3版、医薬ジャーナル社、大阪、2016、p.143

図4 血液凝固因子活性の測定(凝固一段法)

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石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012、p.15より一部改変

表2 血友病Aとフォン・ヴィレブランド病(VWD)の鑑別診断

 血友病Aフォン・ヴィレブランド病
(VWD)
原因第Ⅷ因子(FⅧ)の
欠乏もしくは機能低下
フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の欠乏もしくは機能低下
血液凝固検査の結果
 血小板数
出血時間
 凝固因子の活性
  FⅧ
  VWF
 APTT
 PT
 
正常
正常
 
低下
正常
延長
正常
 
正常
延長
 
低下
低下※1
延長
正常
遺伝形式X連鎖潜性遺伝多くは常染色体顕性遺伝
出血症状の特徴深部出血を繰り返す。紫斑、鼻出血、過多月経(女性)など、
表層出血が多い。

※1:VWFは、FⅧの担体タンパク質※2であるため、VWFが低下すると、FⅧは安定して血液中に存在することができなくなる。
※2:特定の物質と特異的に結合して輸送するキャリアタンパク質。

医薬情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第3版. メディックメディア、東京、2023、p.284より一部改変

血友病の重症度

血友病の重症度は、欠乏もしくは機能低下のある凝固因子の活性レベルによって定義され、臨床的重症度は凝固因子の活性と相関する(表32)

表3 血友病の重症度

 凝固因子活性トラフ値臨床的特徴
軽症5%以上、40%未満・自然出血はほとんどないが、外科手術や歯科処置、重篤な外傷の後に長時間出血することがある。
中等症1%以上、5%未満・自然出血は少なくなる(月に1回程度)が、外科手術や歯科処置、重篤な外傷の後に長時間出血することがある。
・軽度の外傷などによって、関節内出血や筋肉内出血を来すことがある。
重症1%未満・自然出血として、関節内出血や筋肉内出血が頻繁に繰り返される。
・週に1~2回程度、出血することがある。
・明確な理由なく出血することがある。

※:繰り返し検査を行ったときの最低値。

インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版、p.4.
世界血友病連盟(WFH). インヒビターとは. 2009、p.4

保因者(carrier)の診断

保因者を診断することは、(1)保因者自身が保因者であることを知ることで、血友病患児を出産する可能性を自覚し、保因者本人および家族の精神的準備をするため、(2)保因者自身の凝固機能を確認することで、日常生活の注意と止血管理の必要性を認識するため、(3)男子出生時の子どもの安全確保のため、また、分娩時の器具使用を避けるため、さらには、(4)保因者や血友病患者の病態生理を把握し、医療の発展に貢献するためにも重要である。

保因者を診断する方法として、①家族歴の聴取、②凝血学的検査、③遺伝学的検査がある。

① 家族歴

家族歴を入念に聴取し、詳細かつ正確な家系調査を行うことで、保因者分類が可能になる(表4)。家系図を書くことも、保因者分類をするうえで役に立つ。

表4 保因者の分類

保因者定義
確実保因者(確定保因者)
(definite/obligatory carrier)
以下の場合
・血友病患者の娘
・二人以上の血友病患者を持つ母親
・一人の血友病患者を持ち、血族に他の血友病患者がいる母親
推定保因者潜在保因者
(potential carrier)
血友病患者の姉妹およびその娘、確実保因者の姉妹およびその娘
可能保因者(疑保因者)
(probable carrier)
一人の血友病患者の母親で、家系に他の血友病患者がいない(孤発例の母親)

石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012、p.57-58より作成

② 凝血学的検査

保因者の血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)もしくは血液凝固第Ⅸ因子(FⅨ)は、ライオニゼーションにより、理論上は50%程度に低下するため、それら凝固因子の活性値を測定することで、保因者であることを推定することは可能である。
※:女性が持つX染色体2本のうち、1本が不活化される現象。

→詳しくは、後天性血友病と女性血友病 女性血友病 ~ライオニゼーション(lyonization)と血友病~

しかし、実際には、活性値が極めて低くなるケースから正常に近いケースまで、個人差が大きいため、活性値だけでは診断率は低くなる。活性値測定より確度の高い方法として、FⅧ活性と、血液中でFⅧと結合しているフォン・ヴィレブランド因子(VWF)との抗原比をみる方法もあるが、それでも正診率が低いため、この方法での診断は推奨されていない。

③ 遺伝学的検査

遺伝子解析によって、推定保因者(表4)の一対の責任遺伝子中に、血友病の病因遺伝子変異があるかを確認する。血液凝固検査(凝固因子の活性値測定)よりも確度ははるかに高いものの、診断に至らないこともあり、家系内患者の協力が必要になることも多い。また、特殊な検査であるため、限られた専門施設でしか行うことができず、時間も要するうえ、高額な費用がかかるため、国内では普及していない。

血友病保因者の約10%は、FⅧもしくはFⅨの活性が30~35%未満であり3)、その場合、月経過多や外科手術・処置および分娩時の止血困難を来すおそれがある。英国の血友病とその他遺伝性出血性疾患に関するガイドライン(2005)では、「潜在保因者は、採血可能な時期(1歳以降)になれば、凝血学的検査によって、出血リスクに対応すべきである」としている4)

出展)

1)篠澤 圭子. 血栓止血誌. 2015; 26(5): 549-556.
2)中尾 眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、2019.
3)石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
4)Ludlam CA et al. Haemophilia. 2005; 11: 145-163.

参考)

白幡 聡、福武 勝幸編. みんなに役立つ血友病の基礎と臨床. 改訂3版、医薬ジャーナル社、大阪、2016.
宮川 義隆、天野 景裕編. はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル. 医薬ジャーナル社、大阪、2017.
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
篠澤 圭子. 血栓止血誌. 2015; 26(5): 549-556.
西田 恭治. Land-Mark in Thrombosis & Haemostasis. 2021; 2(1): 39-42.
長江 千愛. 小児内科. 2021; 53(7): 1120-1123.
中尾 眞二ほか編. 血液疾患 最新の治療2020-2022. 南江堂、東京、2019.
医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第2版. メディックメディア、東京、2019.
インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン作成員会. 一般社団法人日本血栓止血学会. インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン 2013年改訂版.
世界血友病連盟(WFH). インヒビターとは. 2009. http://www1.wfh.org/custom/www.wfh-japanese.org/B03_What-Are-Inhibitors-1.pdf 

JPN-AFS-1746

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