血友病Aと血友病Bの症状に差はなく、皮下出血や関節内出血、筋肉内出血、頭蓋内出血といった内出血や、口腔内・歯肉の出血や鼻出血、血尿(腎出血)、消化管出血、外傷後出血、血精液などの外出血がみられる。
新生児では、吸引分娩や鉗子分娩などによる頭蓋内出血がみられ(それ以外の出血はまれ)、その後、ずりばいや一人歩きなどが始まる1歳前後から、口腔内などの粘膜出血や軽度の打撲による皮下出血が繰り返しみられ、幼児期以降になると、体重がかかる膝や肘、足の関節内、それらを支える筋肉内の出血といった深部出血が特徴的となる(図1)。特に関節内出血は、同じ関節に繰り返し起こると、慢性関節炎や関節軟骨破壊、関節変形や関節拘縮が生じ、血友病性関節症となり、患者さんの日常生活動作(activity of daily living:ADL)や生活の質(quality of life:QOL)が著しく低下する。
図1 主な出血の種類と好発年齢
宮川 義隆、天野 景裕編. はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル. 医薬ジャーナル社、大阪、2017、p.29.
表 主な出血症状の特徴
出血部位 | 特徴 |
---|---|
鼻出血 | ・鼻炎や風邪、鼻をほじることなどで容易に出血する部位で、出血傾向を心配する患者からのよくある訴えの一つである。 |
口腔内出血・歯肉出血 | ・口腔粘膜や歯肉の傷、歯科治療、乳歯脱落時などに出血傾向を来す。 |
皮下出血 | ・軽度の打撲などによる皮下出血で青あざ(点状出血斑※1、斑状出血斑※2)や血腫※3がみられる。 ※1:直径5センチ以下。 ※2:直径5センチを超える。 ※3:出血が腫瘤状になって厚みを持つ。 |
関節内出血 | ・歩行を開始し、関節の可動が活発になる1歳以降でみられるようになる。 ・膝関節が最も多く、次いで肘関節、足関節の順に多い(図2)。 ・疼痛・腫脹・熱感を三大主徴とする。 ・慢性化によって、標的関節(ターゲットジョイント)になり、血友病性関節症(慢性関節炎、関節軟骨破壊、関節変形や拘縮など)に至る(図3)。 図2 関節内出血の発症率 長尾 大翻訳. 世界血友病連盟(WFH). 血友病医療のガイドライン、日本赤十字社より作成 図3 血友病性関節症(36歳、男性) Rodriguez-Merchan EC. HSS J. 2010; 6(1): 37-42. |
筋肉内出血 | ・外傷や激しい運動後に生じやすい。 ・筋力の強い部分(腸腰筋や大腿四頭筋、腓腹筋、前腕の屈筋など)に好発する。 ・腸腰筋出血は、右下腿部痛のために急性虫垂炎と間違えやすく、大腿神経麻痺を来すことがあるため重要である。 ・疼痛性腫脹や運動障害を来す。 ・筋肉内出血によって、動静脈や神経が圧迫を受けると、コンパートメント症候群(筋区画症候群)※を生じることがある。 ・動きが激しくなる小学校高学年以降に多くみられる。 ※:筋膜や骨で囲まれた筋区画の内圧が上昇し、周辺の筋肉や神経への末梢循環が障害されることで、筋区画内の組織が壊死すること。 |
頭蓋内出血 | ・分娩時の器具使用に起因することが多く、死亡や神経学的後遺症につながるおそれがある最も重篤な出血症状の一つである。 ・血友病新生児の1~4%で報告されており1)、血友病の初発症状となることがある。 ・外傷などの原因が明確でない場合も多く、乳幼児では、不機嫌、活発でないといった非特異的症状がみられることがある。 |
腎出血 | ・血尿がみられる。 |
消化管出血 | ・胃や十二指腸、大腸などの粘膜からの出血による吐血や下血がみられる。 |
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.、
嶋 緑倫監修. Edited by Lee CA, Berntorp EE, Hoots WK. Textbook of Hemophilia 3rd edition 日本語要訳版・上巻,
Wiley Publishing Japan.、
医薬情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第2版. メディックメディア、東京、2019.より作成
出典)
1)嶋 緑倫監修. Edited by Lee CA, Berntorp EE, Hoots WK. Textbook of Hemophilia 3rd edition 日本語要訳版・上巻, Wiley Publishing Japan.
参考)
石黒 精ほか編. はじめての血友病診療実践マニュアル. 診断と治療社、東京、2012.
嶋 緑倫監修. Edited by Lee CA, Berntorp EE, Hoots WK. Textbook of Hemophilia 3rd edition 日本語要訳版・上巻, Wiley Publishing Japan.
医薬情報科学研究所編. 病気がみえる vol.5. 第2版、メディックメディア、東京、2019.
宮川 義隆、天野 景裕編. はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル. 医薬ジャーナル社、大阪、2017.