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すぐわかる 心臓血管外科の周術期管理

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Vol.1 術後心房細動(POAF)や急性腎障害(AKI)をどう防ぐか

POAFとAKI、国内外のガイドラインをどう読むか

監修: 九州大学大学院医学研究院 循環器外科学 教授 塩瀬 明 先生

心臓血管外科の周術期管理では、術後心房細動(postoperative atrial fibrillation:POAF)と急性腎障害(acute kidney injury:AKI)はいずれも頻度が高く、在院日数や予後に直結する重要な合併症である。しかし、日本のガイドラインと海外の最新のガイドラインでは、両者の扱い方に少し温度差がある。POAFについて日本では、「起きた後の適切な初期対応をどう組み立てるか」が中心であるのに対し、2026年の米国胸部外科学会(STS)ガイドラインでは、「術前・術中・術後を通じてどう予防を設計するか」がより前面に出ている。一方AKIについては、日本でもリスク評価・腎機能モニタリング・循環動態維持を重視する立場が明確だが、海外ではこれらに加えて、人工心肺中の酸素供給量や体温管理など、心臓手術に特有の予防策についても具体的に示されている。

POAF:日本は「発症後の標準対応」、海外は「予防戦略の全体像」

日本では心臓外科POAFに特化した包括的ガイドラインが乏しく、現状は2022年改訂版非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン1)と2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン2)を参照している。

まず非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン1)では、POAFに対する治療方針は、非周術期と同じとされ、レートコントロール、抗凝固療法、リズムコントロールを検討し、症状が強い場合や血行動態が不安定な場合には、電気的除細動や抗不整脈薬による停止を試みるとされている。予防に関するその他の推奨は限定的な記載にとどまり、POAF発症後の対応が中心に示されている。 一方で不整脈薬物治療ガイドライン2)には、「初発、アルコール性、または開胸術後の心房細動再発予防目的の抗不整脈薬投与」がClass IIb、エビデンスレベルCとして記載されており、POAF予防の発想そのものが否定されているわけではない。ただし、推奨の強さは限定的であり、日本ではPOAF予防はまだ「選択的に考えるもの」という位置づけに近い。

これに対して2026年のSTSガイドライン3)では、POAFを「周術期介入(術前予防)・術中予防・術後治療」の3相に分けて整理している。周術期介入(術前予防)においては、経口アミオダロン投与は新規発症のPOAFを予防する目的でClass Iとして推奨されており、β遮断薬はClass IIa、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬はClass IIbとして位置づけられている。術中予防においては心臓手術時の左後方心膜切開や心房ペーシングについても検討されている。POAFが生じた場合には、血行動態が不安定な患者には電気的除細動が推奨されている。また、血行動態が安定している患者ではレートコントロールとリズムコントロールのいずれの戦略も妥当であるとしている。

*本記事中の治療薬に関する記載は、海外ガイドライン等に基づく情報を含んでおり、日本国内で承認された効能・効果、用法・用量等とは異なる場合があります。したがって、当該記載には国内承認範囲外の内容が含まれます。

 さらにPOAFの背景には周術期ストレスの関与があり、修正可能なリスクとして捉える視点が強まっている。このように、海外の最新ガイドラインでは、POAFは発症後に対応するだけでなく、術前からリスクを評価し、周術期を通じて予防策を講じるべき合併症として位置づけられている3)。起こさないために術前から見取り図を描く対象に変わりつつある。

AKI:日本は「リスク評価と全身管理」、海外は「心臓手術に特化した予防」

国内では、現在も5学会合同による「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」がAKI診療に関する基本的な指針となっている。同ガイドライン4)では、後述の国際的な非営利組織であるKidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)診断基準を基本とし、心臓手術関連AKIのリスクとして加齢、術前腎機能低下、人工心肺施行時間などを挙げ、さらに血清クレアチニンだけでなく尿量を含めて重症度評価することを提案している。加えて、先述の2022年 改訂版 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン1)では、周術期低血圧の持続がAKIに結びつくことが紹介されており、AKI予防が単なる腎臓の話ではなく、周術期の全身管理の観点で扱われていることがわかる。

 一方、心臓手術後AKI(cardiac surgery-associated acute kidney injury:CSA-AKI)については、2016年以降、海外から心臓手術に特化したガイドラインやコンセンサスが報告されている。

Prunaら5)によれば、AKIは心臓手術後に最大40%でみられる頻度の高い合併症であり、合併症の増加や死亡率を高める重要な問題とされている。そのうえで著者らは、発症したAKIに対する特異的な治療法は現時点で存在せず、AKI診療では予防が重要であると明記している。

KDIGOの推奨では、AKI予防のために、腎毒性を起こしうる薬剤の回避、体液量および灌流圧の評価、腎機能および血行動態モニタリング、血清クレアチニンと尿量のモニタリング、高血糖の回避、可能な限り造影剤の使用を避けることなどが挙げられている7)。これらは単一の治療によってAKIを予防するのではなく、複数の腎保護策を組み合わせて周術期管理を行う、いわゆるKDIGO bundleとして用いられている7)。 ただしPrunaらは同時に、KDIGOに基づく管理について、メタ解析ではAKIを有意に減少させなかったとも述べている。この点は重要であり、AKI予防は「管理項目を並べたから十分」というものではなく、患者背景、慢性腎臓病の有無、循環動態を評価しながら、これらの腎保護策を適切に行うことが重要である。

さらにSTS/SCA/AmSECTによる心臓手術後AKI予防ガイドライン6)では、心臓手術に特有の予防策についても具体的に示されている。高リスク患者に対するKDIGO bundleの実施に加え人工心肺管理では、十分な酸素供給量の維持や37℃超の高体温灌流を避けることが推奨されており6)、AKI予防を術後の管理だけでなく、術中の人工心肺灌流・循環動態・体温管理を含めた周術期全体での対応が重要であることを示している。つまり、日本のガイドラインがAKIを起こさないための基本的な考えを示しているのに対し、海外のガイドラインは、麻酔科医や人工心肺担当者を含む周術期チームが実際に行うべき管理について、より具体的に示されている。

まとめ

以上を踏まえると、POAFもAKIも、「起きたら対応する」から「起こさないように予防する」への軸足の移動が共通テーマといえる。ただし、その内容には差があり、POAFでは海外がより予防重視へ、AKIでは日本も海外も予防的管理重視だが海外の心臓手術に特化したガイドラインでは、高リスク患者へのKDIGO bundleに加え、人工心肺中の酸素供給管理や体温管理など、心臓手術に特有の予防策についても示されている。

明日からの実践

  • POAF・AKIともに、術前の時点で高リスク患者を層別化し、予防介入の要否を周術期チームであらかじめ共有する。
  • POAFでは、発症後対応に加えて、β遮断薬/アミオダロン導入も含め、術前・術中・術後のどこで予防を組み込むかを事前に整理する。
  • AKIでは、KDIGOに基づいた腎毒性を起こしうる薬剤の回避、体液量および灌流圧の評価、腎機能・血行動態・尿量のモニタリングに加え、人工心肺使用時の灌流・温度管理まで含めて、周術期を通して共有する。

心臓血管外科医にとって重要なのは、国内ガイドラインで足場を固めたうえで、海外の最新のガイドラインが示すもう一歩先の設計思想を、自施設の麻酔科や集中治療医・ICUスタッフ、臨床工学技士と共有し、チームとして周術期管理に取り組むことである。

1) 日本循環器学会/日本心臓病学会. 2022年改訂版 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン.

2) 日本循環器学会/日本不整脈心電学会/日本小児循環器学会/日本心臓病学会/日本脳卒中学会.2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン.

3) Chatterjee S, Grant MC, Hui DS, et al. The Society of Thoracic Surgeons 2026 Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of New-Onset Postoperative Atrial Fibrillation After Cardiac Surgery. Ann Thorac Surg. 2026; 122(2): 255-277. doi:10.1016/j.athoracsur.2026.04.002.

4) AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会 編.AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016.

5) Pruna A, Monaco F, Asiller ÖÖ, et al. How Would We Prevent Our Own Acute Kidney Injury After Cardiac Surgery? J Cardiothorac Vasc Anesth. 2025; 39(5): 1123-1134.

6) Brown JR, Baker RA, Shore-Lesserson L, et al. The Society of Thoracic Surgeons/Society of Cardiovascular Anesthesiologists/American Society of Extracorporeal Technology Clinical Practice Guidelines for the Prevention of Adult Cardiac Surgery-Associated Acute Kidney Injury. Anesth Analg. 2023; 136(1): 176-184.

7) Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Acute Kidney Injury Work Group. KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138.

JPN-TSL-0614

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