【監修】 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学 村松 秀城 先生
3. 治療
PIDの治療では、疾患と重症度(「2 診断」の項参照)によって、以下のような治療法が選択される。
原発性免疫不全症候群の治療法
治療法 | 対象疾患 |
予防的抗菌薬・抗真菌薬 | CGDなど多くの原発性免疫不全症候群 |
免疫グロブリン補充療法 | XLA,CVIDなど液性免疫不全 SCIDなど |
同種造血幹細胞移植 | SCID,X-HIGM,CGDなど多くの原発性免疫不全症候群 |
遺伝子治療 | ADA,X-SCID,WAS,CGDなど |
免疫調節剤 IFN-γ mTOR阻害剤 アバタセプト ルキソリチニブ トシリズマブ | CGD ALPS,IPEX syndrome,PIK3CD異常症 CILA4異常症,LRBA異常症 STAT1異常症 STAT3異常症 |
予防的抗菌薬・抗真菌薬*
予防的に抗菌薬・抗真菌薬の投与を行うことで、一般的な細菌によって引き起こされる感染症の頻度と重症度を減らす効果が期待できる。疾患のタイプによっては、他の抗ウイルス薬・抗真菌薬を用いる場合もある。
*抗菌薬・抗真菌薬の予防的投与は適応外
免疫グロブリン補充療法
現在、免疫グロブリン(Ig)補充療法はさまざまな原発性免疫不全症候群で行われている。免疫グロブリン補充療法によって、敗血症、肺炎、その他の深刻な急性細菌感染症が予防できると考えられる。投与法には、経静脈注射(IVIG)と皮下注射(SCIG)があり、いずれの投与方法も同様の有効性が確認されている。免疫グロブリン補充療法は生涯に渡り行っていく治療法であり、患者のQOLに大きな影響をおよぼすため、治療法の選択は重要である。近年のSCIG製剤の臨床試験参加症例では、SCIG製剤への変更によりQOLスコアの改善が認められたことが報告されている6)。
同種造血幹細胞移植
正常な造血幹細胞から免疫担当細胞を採取・移植し、分化・増殖が行われることで、永続的な免疫再構成が可能となる。重篤な感染がなければ、移植時の合併症の危険も少なく、できる限り早期に実施するのが望ましい治療法である。
遺伝子治療
原発性免疫不全症候群では、単一遺伝子が原因であることが多く、長年にわたり遺伝子治療の開発が試みられている疾患である。今後も遺伝子治療が発展していくことが期待される。
免疫調節剤
近年、免疫調節に関与する遺伝子の変異による原発性免疫不全症候群が多数同定されている。このような疾患概念の確立により、治療に免疫調節剤が使用され始めている。慢性肉芽腫ではインターフェロンγ(IFN-γ)による治療が、自己免疫性リンパ球増殖性症候群(ALPS)*やIPEX(immune dysregulation, ployendocrinopathy, enteropathy,X-linked)症候群*においてはMammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬が有効であることが示されている。
*本邦では適応外
6)Mallick R, et al. J Clin Immunol. 38(8): 886-97, 2018.